本格焼酎&泡盛の新たな歩み◆焼酎スタイリストが解説「FOODEX JAPAN」取材

新年度も始まり、新たな環境やつながりが生まれる時期ですね。東京発信の「焼酎&泡盛スタイル」では焼酎&泡盛業界の”今”の特徴をお伝えします。今回は東京ビッグサイトに会場を移して開催された「FOODEX JAPAN」にもその傾向は表れていました。日本の伝統酒でもある「本格焼酎・泡盛」の出展から見えてきた新たなポイントも紹介します。毎年「FOODEX JAPAN」を取材している焼酎スタイリストyukikoさんが昨年度との違いや注目ポイントも解説してくれています。蔵元からメッセージもいただいています。”今年度だからこそ”の本格焼酎と泡盛の楽しみ方をぜひご覧ください。

昨年との違いが見られた「FOODEX JAPAN」

焼酎スタイリストyukikoです。3月に行われた第48回 国際食品・飲料展「FOODEX JAPAN2023」(以下、FOODEX)は、前回までの幕張メッセから東京ビッグサイト(東京都江東区有明)に場所が変わって開催されました。コロナ禍であるものの昨年よりも出展国が増え、世界60か国の地域から2,500社(2月3日付登録数)、国内916社・海外1,584社の参加により、食品と飲料の最新情報が東京に集まりました。(昨年の様子はこちらから

会場は新型コロナウイルス感染症対策のガイドラインが表示されているなかで開催。出展者にはマスク着用などの指定はありましたが、一昨年や昨年との大きな違いは試食や試飲ができるブースが全体的に増えていました。食のジャンルや国や地域によって、それぞれの盛り上げ方がなされ、活気がありました。

本格焼酎と泡盛業界の今

「本格焼酎と泡盛」のブースでは、今年は全国から約100社、293銘柄が会場に並びました。麦焼酎90銘柄、芋焼酎92銘柄、米焼酎49銘柄、黒糖焼酎9銘柄、酒粕焼酎12銘柄、そば焼酎4銘柄、それ以外の原材料で造られた焼酎7銘柄、泡盛30銘柄です。

原料別に紹介します。特に注目した原料には直接蔵元のインタビューもあります。

芋焼酎(92銘柄)

芋焼酎の現在の傾向として押さえておきたいのは、昨年の記事でも解説したサツマイモのつる枯れ対策・腐敗対策です。蔵元が行っている現在の取り組みについて、鹿児島県の蔵元:神酒造株式会社 神孝輔さんにお話を伺いました。

「サツマイモ基腐病によるサツマイモのつる枯れや腐敗の影響は、芋焼酎を造る蔵にとっては死活問題でもあります。品質が保たれた芋を育てたり仕入れるのは大変なため、芋焼酎の価格を上げざるを得ない蔵もたくさんあります。現状価格で頑張っている蔵もあります。

特に芋焼酎の原料としてポピュラーな黄金千貫がこの病気にかかってしまって、黄金千貫を原料にしている蔵は対策案をそれぞれ立てていますね。サツマイモの収穫期を早めて根腐れ防止に努めたり……。ただこれは一時的な対策でしかなくて、たとえば芋が小さければその分個数が必要になってしまうんです」

現在、鹿児島県では黄金千貫と成分が似ている芋品種「みちしずく」を使い始めている蔵もあります。黄金千貫に近い味、酒質表現ができるサツマイモとして実験データでも出ている品種です。この「みちしずく」に着目して、黄金千貫の代用をする酒造蔵もあるようです。

鹿児島県の場合、フランス・シャンパーニュ地方で造られた「シャンパン」のように、世界から認められている地域ブランド「GI薩摩」があります。この地域ブランドとして認められるためには、鹿児島県産のサツマイモだけで製造することが条件に含まれているため、サツマイモが足りないからといって他の都道府県や国で育った芋を使用することはできないのです。

地域の伝統文化産業として「薩摩焼酎」と呼ばれているものがGI認定を受けた焼酎に当たります。鹿児島県のブランドとしてこれからも守っていくためには、従来、黄金千貫を用いて造られた銘柄は、大きく分けて2つの方法で数年間を乗り越えることになります。1つ目は生産量は減るかもしれないが、従来と同じように黄金千貫を使用する。2つ目は味や酒質表現が近似しているみちしずくを使用する。みちしずくを使用した芋焼酎はこれから増えてくるであろうと神さんも予測されています。1年後、2年後にさらに多くの商品として皆さんの身近なものになるかもしれません。

また、別の対策法として、違う芋品種を使用した新たなラインナップを加えている蔵もあります。これが鹿児島県に限らず、ここ数年の芋焼酎蔵の取り組みとして活発になってきているので、新たな銘柄やラインナップも増えてきています。

芋焼酎好きの皆さんは、ぜひ現状の芋焼酎業界を知ったうえで楽しんでみて下さい。その1杯の背景を感じられる深みのある時間にもなることでしょう。

最後に神さんより……「焼酎も泡盛もお酒は嗜好品なので色々試して飲んでみて欲しいですね。例えば焼酎初心者の方なら炭酸などで割って、良い香りが立つものから楽しんで入っても良いでしょうし。ある程度飲みなれてきたら、お湯割りの美味しさも感じてもらえたら嬉しいですね」

あなたと蔵元がつながる「価値ある1杯」。2023年もそのような楽しみ方もしてみて下さいね。

麦焼酎(90銘柄)

昨年表れていた傾向が、今回は定番化してきて、ラインナップに落ち着きが感じられた麦焼酎のブース。焼酎の中でも「麦焼酎が好き」という来場者も多くいました。出展銘柄数も芋焼酎と同じくらい多く、生産地域も様々なため、今後は「麦焼酎」という大きなカテゴリーの中で、どのようにそれぞれの個性をわかりやすくエンドユーザーや新規ファンに伝えていくのかが更に問われていくであろうと感じたブースでもありました。

麦焼酎というと、主に長崎県壱岐島で造られる麦焼酎「壱岐焼酎」と大分県の麦焼酎「大分むぎ焼酎」を知っている方も多いかもしれません。今回は福岡県久留米市の蔵元:杜の蔵(もりのくら)森永一弘さんにこの2つの地域との違いも含めてお聞きしました。

「皆さんにはぜひ壱岐焼酎、大分むぎ焼酎以外の地域でも麦焼酎が造られている事に着目してほしいですね。色々なところで麦焼酎は造られていますので、私たちの生産地域やブランドを皆さんに知ってもらってファンになってもらうためにも、中身の美味しさだけではなくてそれを伝えるラベルやチラシなども、もっとしっかり考えて取り組んでいかないといけないのだと感じています。ラベルは1回作ると、すぐに変えることができないですしね……」

伝統文化産業である本格焼酎や泡盛には、先代から受け継がれてきたラベルを使用している蔵や銘柄があります。お酒の酒質設計同様に、代々守っていくのも一つの方法でしょうし、造り手が原料の品質やニーズに合わせて毎年少し酒質表現を変えるように、中身や時代に合わせて商品ラベルや伝え方も変えていく方法もあります。

「”麦焼酎”といっても様々な産地、表現があるから、そういう部分も”見て伝わる”ような工夫もしていく時代になってきているだろうなと強く感じます。自分たちもその部分はまだまだ行きついていないところなので、これからはただお酒を造るだけではなくて、皆さんに魅力的に感じてもらえるような伝え方にも力を入れて行かないといけないなと思っています」

麦焼酎も生産地域や銘柄が多いからこそ、細分化された時の個性や差別化を図っていく時代といえるでしょう。もちろん日本の伝統文化産業「本格焼酎」、「麦焼酎」という大きなくくりはあるものの、数が多いからこそ、埋没しないための伝え方・表現をしっかり考えているかどうか……今後、地域や酒造蔵の意識や行動力に差が出てくるであろうと思います。

飲み手の皆さんには、日本の伝統的なお酒「本格焼酎」というブランド、さらに「麦焼酎」というブランド……ここで止まらず、さらにその麦焼酎がどこで造られているのかなど細かな個性をチェックしてみると、麦焼酎の世界がもっと面白くなりますよ。

米焼酎(49銘柄)

熊本県球磨・人吉地域で生産される「球磨焼酎」を中心に、昨年よりも出展銘柄が増えていた米焼酎ブース。米焼酎を樽熟成させたものも多く紹介されていました。海外の来場者に対しても積極的に米焼酎のポイントを伝えていました。私が取材していて印象的だったのは「日本酒と何が違うの?」と数人の外国人来場者から聞かれたことです。清酒と米焼酎、米を原料とするお酒としてどのように分かりやすく伝えていくのか……米焼酎をより多くの人たちに飲んでもらうためにも力を入れていきたい部分だと感じた今回でした。

黒糖焼酎(9銘柄)

鹿児島県の奄美群島で造られる「奄美黒糖焼酎」を中心に9種類が並びました。昨年よりも出展数は減っていましたが、興味深かったのは、海外の方に黒糖焼酎の原料がラム酒の原料にもなっているサトウキビだと説明したところ、「だったら飲んでみたい」とブースに近寄ってボトルに手が伸びて試飲される方が多かった事です。

酒粕焼酎(12名銘柄)と そば焼酎(4銘柄)、その他の原料で造られた焼酎(7銘柄)

今回は酒粕焼酎が12銘柄、そば焼酎4銘柄・お茶・ジャガイモ・麦と芋のブレンド焼酎など本格焼酎が7銘柄が出展。特産品を用いて焼酎を造る地域もあり、様々な原料の焼酎が並ぶなか、特徴的だったのは酒粕焼酎と緑茶の焼酎を指定する方が多かったことです。飲んだ時に原料名から伝わる香りや味わいのイメージが湧きやすいものが好まれていたようです。

泡盛(30銘柄)

泡盛ブースでは沖縄県の琉球泡盛を中心に、昨年よりも増えて30銘柄が並んでいました。沖縄県の泡盛も世界的に認められた「GI琉球」という地域ブランドのお酒です。日本の地域のなかでも沖縄は戦前がアメリカ領地だったりと独自の文化を歩んできていますので、沖縄ならではの文化を一層しっかりと伝えていくことが大事になってくるでしょう。「本格焼酎&泡盛ブース」に来られる方の多くはお酒好きの方が多いこともあって、泡盛は度数の高い銘柄を好まれて飲んでいました。

GI琉球に関する記事はこちら

焼酎スタイリストおすすめ!おうち飲みに最適な「おつまみごはん」紹介!

今回は試飲・試食が会場で行われていたため、ここからは「焼酎&泡盛スタイル」読者の皆さんにもおすすめの「おつまみごはん」を紹介します。おつまみごはんとは、おつまみだけでは食生活が乱れてしまう可能性もあるので、ちゃんと食事もしましょう、栄養バランスなども考えて適切な飲み方で楽しみましょう……ということを目的として発信しています。そもそも焼酎と泡盛は食中酒なので、食事の時に楽しめるお酒。食事も大事にしながらお酒を楽しんで欲しい、現代人のための情報です。

私が今回のFOODEXで注目したのが、秋田県大潟村(おおがたむら)で造られている米粉の冷凍餃子です。

米粉の餃子は小麦粉を使わないグルテンフリー食品としてすでに各社から出ていますが、私が注目したのは”冷めても美味しい”こと。冷めた餃子は肉や脂が固まってしまって美味しさが半減してしまった……という経験がある方もいるのではないでしょうか。大潟村のお米を使って作られた「グルテンフリー野菜ギョーザ」「キッズ餃子」(ケチャップ味・カレー味)は冷めても美味しく、具材の野菜もすべて国産を使用している商品です。

■琵琶湖に次ぐ大きな湖が、陸地になって生まれた村:秋田県大潟村秋田県大潟村01水田

秋田県西部、男鹿半島の付け根に位置した大潟村(おおがたむら)は日本最大の干拓地です。かつては八郎潟(はちろうがた)という、面積220㎢ の琵琶湖に次ぐ日本で第2位の大きな湖がありました。大部分の水域が干拓によって陸地化され、1964年(昭和39年)に陸地部分が”大潟村”として自治体登録された地です。

(図を参照)秋田県の左側にある、水地部分に囲まれた内部が大潟村です。干拓前はこの内部がすべて湖でした。湖の大きさがイメージできるのではないでしょうか。現在も近隣の市町村と陸続きで接していないため、7基の橋だけでつながっています。とても珍しい地域です。

当時はたった6世帯14名の人口からスタート。「日本農業のモデルとなるような生産およぴ所得水準の高い農業経営を確立し、豊かで住みよい近代的な農村社会をつくる」ことを目的とし、全日本農業のパイオニアを目指しています。2022年(令和3年)4月段階で人口は1,096世帯3,054人に。過疎化の対策もしつつ、村の主力である米生産に力を入れています。

今回の「FOODEX JAPAN」では、大潟村の産業振興課 松橋秀男さんと佐藤洋平さんにお話を伺いました。「大潟村は米農家が多い農業のまちです。他の地域と違うのは、干拓によって区画整備されたため水田が碁盤の目のようになっていることですね。全国的にもここまで広大な場所は珍しいと思います。一度皆さんにもこの風景を見に来て欲しいですね。碁盤の目のようになっていることで海外のファームのように田植えや収穫の際に大型機械が入りやすく、作業がしやすいんです。効率性の良い田んぼが造られています」

秋田県大潟村02

町の主要産業が米の生産でもあるため、今回の餃子のように二次加工製品にも力を入れています。佐藤さんいわく「この餃子シリーズは首都圏の大手スーパーでも取り扱いがあります。米粉を使用しているのでグルテンフリーです。アレルギーが気になるお子さまも安心して食べていただけます。さらに、冷めても美味しいのがこの商品の特徴です。ぜひ食品コーナーで見つけたら、ご家族やお酒のおつまみに利用してみて下さい」

イオンなど大手スーパーでも取り扱いがあるため、「焼酎&泡盛スタイル」読者の皆さんの日常にも取り入れやすい商品です。実際に私も試食をしてみました。一般的な冷凍餃子や米粉餃子よりもコショウや塩が控えめで、具材や米粉など素材の優しい味が届いてきます。冷めても硬くなりにくく美味しくいただけます。見かけた方は、一度手に取って焼酎&泡盛と一緒に楽しんでみて下さいね。

今後も皆さんのライフスタイルに合った”おつまみごはん”を紹介していきます。焼酎と泡盛の楽しむコツとして皆さんの日常に取り入れてみて下さい。これからも「美味しい1杯」を楽しみましょう!

 

[取材・撮影・文]yukiko/焼酎スタイリスト・泡盛スタイリスト・地域伝統文化産業コーチ
[協力]秋田県大潟村役場 産業振興課、色彩総合プロデュース「スタイル プロモーション」
[編集]「焼酎&泡盛スタイル」編集部

[参考]大潟村ホームページJA大潟村ホームページ  

※写真の無断転用、二次使用はお断り致しております。ご理解ご協力のほど宜しくお願い致します。

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【 FOODEX JAPAN 20223】

◎日時 2023年3月7日(火)~10(金)東京ビッグサイト

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