本格焼酎&泡盛の今と未来◆焼酎スタイリストが解説!「FOODEX JAPAN」取材レポート
幕張メッセで開催された「FOODEX JAPAN」では、日本の伝統的なお酒「本格焼酎・泡盛」も出展していました。昨年に続きコロナ感染症対策を行った上での開催です。今回は”國酒の今と未来”をテーマに、長年このイベントを取材している焼酎スタイリストyukikoさんが現地取材を担当。今後の注目ポイントや蔵元から直接メッセージもいただいています。ぜひご覧ください。
今年の「FOODEX JAPAN」で見られた光景
焼酎スタイリストyukikoです。今回は幕張メッセ(千葉県千葉市)の第47回 国際食品・飲料展「FOODEX JAPAN2022」(以下、FOODEX)で見られた”國酒の今と未来”についてお届けします。この展示会は国内外のバイヤー向けに1976年からスタートしていて、今年は世界41か国と地域から1461社(2月22日付登録数)の最新の食品と飲料が一堂に会しました。広い展示会スペースの一角に國酒「本格焼酎・泡盛」もブースを構え、日本の伝統文化産業をアピールする場になっていました。
今回は昨年よりも来場者が多く、昨年同様にイベントにおける新型コロナウイルス感染症対策のガイドラインに則って開催されていました。例えば、試飲担当者はマスクと手袋の着用が必須で、フェイスシールドの着用も主催者側から推奨されています。さらに、セミナーを行う場合や列に並んだり試飲の際には、人と間隔の確保をすること。試飲は使い捨て容器を使用し、ごみ袋の密閉廃棄を行うこと。これらも主催者側から出展側に指定されていた内容であり、こういった環境はコロナ禍以前では見られない”今”を表すイベント光景です。
焼酎や泡盛を多くの方に知ってもらうためにも、試飲提供が可能な環境かどうかは大事になってきます。そのため、一定のルールを守って運営する……という全体の意識が取材していても伝わってくる雰囲気がありました。
コロナ禍の今。蔵元が向かおうとしている未来
「本格焼酎と泡盛」のブースでも蔵元や関係者の人数は必要最低限で運営されていました。麦・芋など原料別にエリアが分かれていて、来場者が気になる本格焼酎と泡盛を試飲できるようになっています。今年は21都道府県から117社、297銘柄が会場に並びました。麦焼酎101銘柄、芋焼酎92銘柄、米焼酎36銘柄、黒糖焼酎19銘柄、酒粕焼酎12銘柄、それ以外の原材料で造られた焼酎12銘柄、泡盛25銘柄です。
ここからは原料別に紹介していきます。
麦焼酎(101銘柄)
原料別で最多数の銘柄が並んでいた麦焼酎ブース。麦麹を使用して麦焼酎を造る大分県「大分むぎ焼酎」、長崎県壱岐島で造られる米麹を使用した「壱岐焼酎」をはじめとして、全国各地の麦焼酎101銘柄が揃いました。
今は麦焼酎と一言でいっても地域のブランド商品としての位置付け・他地域との差別化を強化する目的もあり、地域の特色を出そうとしている商品が増えてきました。そのひとつが大分県の「大分むぎ焼酎」です。麦焼酎の原料になる大麦は国内生産量や価格など関係から海外麦を使用することが多いのですが、そのようななかで生まれたのが10年前から大分県と大分県酒造協同組合で共同開発された大麦品種「トヨノホシ」です。これを原料にした「大分むぎ焼酎」が2017年から登場しています。発売初年度は7銘柄でしたが、現在は「トヨノホシ」を用いる酒造蔵・商品ラインナップも増えました。今回の「FOODEX JAPAN」でもその銘柄を紹介しているシーンを多く見られました。
大分県の藤居酒造 株式会社 藤居徹さん(写真)いわく「大麦品種「トヨノホシ」を使った麦焼酎は風味が豊かでコクがあるのが特徴です。さらにメロン系の香りが立つ酢酸(さくさん)イソアミルを含んでいるため、飲みごたえのある常圧蒸留の麦焼酎でも良いのですが、スッキリした減圧蒸留にも向いている原料麦です。蔵元としても「トヨノホシ」は単に原料という”モノ”ではなく、大分県の麦焼酎のアイデンティティを確立する役目もあると思っています」
今後の取り組みもお聞きしました。「大分県の麦焼酎「大分むぎ焼酎」をより多くの皆さんに知って飲んでもらうためにも、大分県産の麦・水を使用した”現地の味”を表す「ブランド」として育てていくことが大事だと考えています。大分県産大麦「トヨノホシ」を使用した麦焼酎を皆さんにも注目して飲んでもらいたいですね。ウーロン茶や牛乳で割るのも良いですし、炭酸で割ると香りが広がって飲み口も軽くなります。私も20年前は麦焼酎を炭酸で割るなんて!と思っていたひとりでしたが(笑)、今は”美味しい”という評価を大事にしてストレートや炭酸割りなど楽な割り方で楽しんでいます。読者の皆さんにも気軽な気持ちで楽しんで欲しいですね」
芋焼酎(92銘柄)
芋焼酎のブースでは、鹿児島県・宮崎県をはじめとする各地の芋焼酎92銘柄が並びました。現在、芋焼酎業界は大きな問題を抱えています。イモのつる枯れや腐敗をもたらす「サツマイモ基腐病」が深刻な被害をもたらしていて、サツマイモの収穫量が激減しているのです。
フランス ・シャンパーニュ地方で造られた「シャンパン」のように、世界から地域ブランドとして認められているGI(地理的表示)のひとつ「GI薩摩」は薩摩焼酎を表すものですが、鹿児島県内のサツマイモを使用することが認定条件のひとつになっています。他県や輸入芋に頼らずにどこまで県内産の良質な芋を使って酒造りができるのか……「サツマイモ基腐病」は鹿児島県に限らず宮崎県や北海道など全国的に広まっていて、これから数年間、芋焼酎の生産量や価格にも影響してくる出来事であることは間違いありません。
このような芋焼酎業界の現状について、鹿児島に拠点がある九州本格焼酎協議会の渡邊貴昭さん(写真)にもお話を伺いました。「サツマイモがこの病気にかかってしまうと、まずは土を消毒して病原菌を無くさなければいけません。畑が健全な状態に戻るまで3~5年はかかります。そのあいだ畑は使えないため代わりの畑を探すことになります。毎年一定の品質を保って飲み手の皆さんに飲んでいただくためにも、蔵元や農家の皆さんは新たな地を開墾して畑にしたり、他の作物と兼作して芋の生産量を確保するなど様々な策を投じて対処しようとしています。ここ数年はそういう意味でも芋焼酎と蔵元を応援してもらえたら嬉しいです」
私たちが美味しい焼酎が飲めているのは、蔵元や農家の皆さんが安心安全で、地域で根付いた文化や人財・特産を守り続けながら酒造りをしているからです。「焼酎&泡盛スタイル」読者の皆さんも、焼酎をとりまく人々の想いや取り組みによる「一杯の価値」を意識して、美味しく楽しく飲んでもらえたらと思います。
米焼酎(36銘柄)
米焼酎ブースでは、熊本県球磨・人吉地域で生産される「球磨焼酎」を中心に36銘柄が並びました。来場されていた焼酎好きの方には「普段飲んでいるのは芋焼酎か麦焼酎」という方が多く、米焼酎を手に取ってもらいやすいよう積極的に飲み比べセットを進めているのが印象的でした。実際に私も5種類の飲み比べをしましたが、長期貯蔵酒や樽貯蔵した銘柄もあり、米焼酎のバリエーションを伝える場になっていました。
熊本県の繊月酒造株式会社 堤純子さんも、普段芋焼酎や麦焼酎を飲まれる方が米焼酎の飲み比べセットを試されるシーンも多かったと語ってくれました。「米焼酎の飲み方も多種多様だということを皆さんに知ってもらえたらと思っています。例えば長期貯蔵酒ならストレートで飲んでみて時間をかけて生まれた香りや酒質を感じて欲しいです。25度の米焼酎ならソーダ割りにするとさっぱりとして美味しいです。特に米焼酎の場合は温めて飲むのがおすすめです。米の甘みが出て、芋や麦など他の原料と違いが分かりやすいと思います。弊社がある熊本県球磨・人吉地域で生産される米焼酎は「球磨焼酎」と呼ばれますが、「がら」と「ちょく」という伝統酒器を使って温めて飲む文化があります」
今後に向けた現在の取り組みもお聞きしました。「球磨焼酎酒造組合では私たちと一緒に球磨焼酎を広めてもらう人たちを認定する球磨焼酎案内人養成講座を開催したり、海外展開としてフランスの展示会に出展したり、国内外で球磨・人吉地域の米焼酎「球磨焼酎」を皆さんに広めていく動きに力を入れています」
黒糖焼酎(19銘柄)
黒糖焼酎ブースでは鹿児島県の奄美群島で造られる「奄美黒糖焼酎」を中心に19種類が並びました。近年では炭酸割りやレモンを入れて飲んでも美味しい黒糖焼酎が増えています。私が主催するゼミセミナーでも國酒を紹介していて、とても好評だった奄美黒糖焼酎のジンジャーエール割りや紅茶割りが美味しい銘柄もあります。飲み手の嗜好に合わせて変化させられる柔軟度が高くなってきている点は、黒糖焼酎業界の今後の楽しみともいえるでしょう。
来場されていた方から「普段、黒糖焼酎を見かける機会がないので飲んだことがなかったけれど、洋酒みたいに楽しめて美味しい。長期貯蔵酒は深みやコクがあってリッチな気持ちになれる。外食だと1杯の価格が高くなってしまうかもしれないけれど、家飲みだと自分好みで試せるから今まで飲んだことがない銘柄にもチャレンジしやすい」という率直な感想もありました。
酒粕焼酎(12名銘柄)と その他の原料で造られた焼酎(19銘柄)
今回は酒粕焼酎が12銘柄、蕎麦・お茶・ジャガイモ・トウモロコシ・昆布・麦と芋のブレンド焼酎など様々な原料で造られた本格焼酎も19銘柄が試飲できました。本格焼酎のメッカである九州地域以外にも、日本各地で生産された野菜やキノコなどを原料にした焼酎があり、焼酎の原料は芋・麦・米・黒糖だけではないことを表す場になっていました。各地で生まれる本格焼酎や泡盛が、その地元をPRする役割も担う商品になってくることでしょう。来場者も普段なかなか見かけない珍しい焼酎に興味津々で試飲されていました。
泡盛(25銘柄)
泡盛ブースでは沖縄県の琉球泡盛を中心に25銘柄が並んでいました。沖縄県の泡盛も世界的に認められた「GI琉球」という地域ブランドのお酒です。ここ数年は現代のニーズに合わせてすっきりとした飲み口の減圧蒸留で造られた銘柄も増えてきました。泡盛を飲みなれていない方も飲みやすい酒質として提案されています。
また、タイ米ではなく国内米を使用する銘柄も出てきています。もともと琉球泡盛は歴史的な背景によりタイ米を使用して製造するのが特徴的な蒸留酒ですが、日本の伝統文化産業「國酒」の考え方のひとつとして、すべて自国の原料を用いて泡盛を製造するという取り組みも行われています。タイ米よりも国産米のほうが甘みのある酒質表現ができるという原料性質もあります。
古来からの伝統を受け継ぐタイ米使用の泡盛。国産米を使用する泡盛。どちらも「國酒」泡盛の個性として受け入れられることでしょう。従来の定義も大事にしつつ、泡盛が私たちの日常に広く飲まれるためにも多彩な酒質表現を皆さんにも注目してほしいですね。
日本の伝統文化産業として、次のステップに期待
コロナ禍で蔵元に会う機会が限られるなか、今回の取材を通して私が「焼酎スタイリスト」の活動を始めた2013年を思い出していました。私の活動はある展示会で出会った蔵元の言葉がきっかけです。「東京の人たちになかなか焼酎を飲んでもらえる機会がないんです。飲んでもらったら絶対に美味しい焼酎を造っている。自分たちは酒造りに人生かけているから」蔵元が語ったように、単に焼酎や泡盛は”モノ”としての価値ではなく、そこに携わる人たちの生活や人生も投影されているものだと私は思っています。
多くの人に飲んでもらうためにはどのようにすれば良いのか……これは焼酎や泡盛に限ったことではありませんが、当時はまだ造り手が表現したいお酒とエンドユーザーが求めているであろうお酒には”意識の差”がありました。そこをコネクトしていくのがスタイリストの役割だと思って活動してきたことが今に至っています。
当時私が感じた造り手とエンドユーザーにあった”意識の差”は主に2点ありました。①酒質表現の差。②商品ラベルや販促物など、ビジュアル表現の差。①に関しては炭酸割りが良い例で、当時私が東京イベントで炭酸割りを提案したいと蔵元に伝えたところ「うちの焼酎を炭酸で割るのはちょっと……」と敬遠されり、時には怒られたり……。(今だから言えますが……笑)しかし、スタイリスト的視点で”時流”を踏まえた時に、東京ユーザーのニーズには必ずハマるであろう、今後炭酸割りが一般化するであろうと確信的な思いもあったため、私の活動を知る蔵元の皆さんにも理解をしてもらったうえで実施したことがあります。予想通り、東京イベントでは炭酸割りは評判が良く、そのイベントで一番人気だったのです。
ただ当時は炭酸割りを見越した酒質設計をしている銘柄の数が極めて少なかったこともあり、炭酸割りが美味しい銘柄をメディアやイベントで紹介するとなると毎回同じ銘柄になってしまう……そういう時期が2-3年続きました。
その後、年を重ねるごとに首都圏対応型やエンドユーザーの存在を意識した商品設計・酒質設計がされる銘柄も増え、同時に蔵元が発する言葉や商品説明にも変化が見られました。(蔵元の皆さんは意識していなかったもしれませんが)年々①の意識の差は縮まってきています。今回の取材の通しても感じられましたし、先の蔵元のコメントにおいてもエンドユーザーを意識した思いを語って下さっているのが分かるかと思います。
エンドユーザーを意識して”時流”に合った提案を酒質で表現しようとする蔵が増えているからこそ、次のステップとして、各メーカーや各地域で力を入れて欲しいのが②ビジュアル表現です。焼酎・泡盛など嗜好品は”美味しい”や”また飲みたい”という実飲の評価の前段階として、エンドユーザーに「興味を持ってもらう」「手に取ってもらう」「(飲まなくても)美味しさや味をイメージしてもらう」という感情を動かすアプローチが必要です。
その有効的な手段がビジュアルプロモーションです。実際に今回主催側の担当者にもお伝えしたのですが、長期的な視野で商品を育てる・ブランドを育てていくためにもイメージ戦略となるビジュアルプロモーションは欠かせません。コロナ禍で直接人と会って営業や交流が限られる現在、そしてオンライン環境でも仕事ができたり対面に代わる情報発信ができる環境に慣れた現在だからこそ、焼酎や泡盛も飲んでもらう前段階の「飲んでみたいと思ってもらえるイメージ戦略」が求められます。
例えばラベルの赤はどのような赤が良いのか。「なんとなく」のあいまい提案では相手に伝わりません。特に「國酒」は伝統文化産業のため、現在の時流を踏まえることも大事ですし、永く愛される普遍性も必要です。この分野は専門性が必要になってきます。私もその分野の一人であるため、HPやチラシを作る際にデザイナーやディレクターとは別にイメージ戦略の統括役として入ることも多いです。アドバイザー的な役割を担う専門家がいると生産者の皆さんにとっても、あいまいな提案・あいまいな戦略で終わらないため、的を絞ったアプローチができて心強いと思います。
今後の”時流”を踏まえ、私がコロナ禍に行っていたゼミセミナー「売れる色のはなし」でも②の向上と応援を目的に行っています。取り上げたメーカーがそのゼミ内容を受けて、自社HPの修正を行ったり、営業時に商品を売り込むテクニックとして活用して下さっているところもあります。
ターゲットや時流によって変わるイメージ戦略。外観と中身(味や風味)に統合性が取れてる商品がもっと増えることを応援したいと思っています。今後の各蔵・地域ブランドの伸びしろ部分であり、②に人や時間を投じている商品かどうか力の差が出てくることでしょう。引き続き、私もその潜在力や実力を持った銘柄やトピックスを皆さんに分かりやすく紹介できるよう努めていきたいと思っています。「焼酎&泡盛スタイル」の読者の皆さんにも注目してほしいポイントです。
本格焼酎と泡盛が迎える第2ステージ。業界関係者の皆さんも、コロナ禍が明けて人々の動きが活発になった時に出遅れないよう、今から準備していくと良いでしょう。
「東京の人たちにも飲んでもらいたい」あの時の蔵元との約束を守るためにも、私が出来ることを今後力を入れていこうと思っています。蔵元や酒造関係の皆さん、エンドユーザーの皆さんとともに歩む第2ステージが到来していると意識して、今後も日本の伝統文化・地域文化であるブランドを、蔵元—販売店・飲食店―メディア―エンドユーザーが波紋のように広くつながる活動を皆さんとともに行ってまいります。
「焼酎&泡盛スタイル」読者の皆さんも、一緒に日本の伝統ブランド「國酒」本格焼酎と泡盛を育ってていきましょう!
[取材・撮影・文]yukiko/焼酎スタイリスト・泡盛スタイリスト・販促アドバイザー
[協力]色彩総合プロデュース「スタイル プロモーション」
[編集]「焼酎&泡盛スタイル」編集部
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【 FOODEX JAPAN 2022 】
◎日時 2022年3月8日(火)~11(金)幕張メッセ
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