【東京と地域をつなぐ】「焼酎楽宴」で見られた本格焼酎と泡盛を盛り上げるポイント

東京の酒販店と飲食店が毎年交代で開催している「焼酎楽宴」は、2015年にスタートしたイベントです。4回目の今年は酒販店がメインでイベントが行われました。イベントの取材は昨年と同様、焼酎スタイリストyukiko(ユキコ)さんが伺い、飲食店がメインで行われた前回との違いや注目ポイントを現地取材してくれました。

酒販店が企画運営する「焼酎楽宴2018」

東京の飲食店と酒販店が共同開催している「焼酎楽宴」。4回目をむかえる今回は酒販店が主導となって2018年6月24日(日)に大崎TOCにて開催されました。今年は来場者数630名、蔵元参加数47蔵、東京の酒販店10店・飲食店45店によって展開されました。

「焼酎楽宴」は、2004年頃にピークになった焼酎ブームを経てから再び「焼酎文化を元気にしていこう」「焼酎を楽しんでもらおう」という酒販店と飲食店の想いによって2015年から開催されています。

酒販店主導の「焼酎楽宴」は、今年で2回目。以前は2フロアに分かれて会場が設けられていましたが、今年は全蔵の一体感を高める目的で1フロアに47蔵元が集結。来場者はイベント2時間30分のあいだに記念グラスを片手に気になる焼酎・泡盛を試飲できるスタイルです。

昨年の飲食店主導との違いや新たな変化が見られた、今年の「焼酎楽宴」。現在、焼酎業界の流行りが色濃く出ていたイベントの様子やポイントを紹介します。

蔵元の提案意識が高まっていた、今年の「焼酎楽宴」

酒販店主体の「焼酎楽宴」では、蔵元の各ブースに東京の飲食店がサポートに入り、来場者の接客にあたっていました。各ブースのスペースを利用して、地元の特産品が試食できる蔵、蔵元お手製のおつまみを出す蔵など、単にお酒の味を伝えるだけではなく、どのように飲んでほしいのか、どのように楽しめるのかを提案している蔵元の姿が多く見られました。

例えば、中村酒造場・中村慎弥さんはミントチョコレートと芋焼酎「なかむら」の燗付けを提案。ブースに一口サイズのミントチョコレートを用意し、来場者が自由に試せるようにしていました。燗付けした「なかむら」と口の中で溶けるチョコレートの柔らかな舌触り、ミントの爽やかな香りを楽しめる“美味しい提案”をしていて、来場者は「なんだか新鮮」と意外な組み合わせに驚いた反応を示していました。

飲食店も食の提案をサポート

会場の奥には、「焼酎楽宴」の飲食店メンバーである3店舗が焼酎と泡盛に合うおつまみを提供しているブースも設けられていました。メニューは「ローストビーフ・マッシュポテト・牡蠣の燻製マリネ」「クリームチーズのブランマンジェ 山うにソースがけ・ホタテの燻製」「イワシの新生姜煮・鰻と胡瓜の山椒和え」の3種です。来場者はそのうち1プレートを選んで食べられるようになっていました。

本格焼酎・泡盛業界を盛り上げていくために必要なこととは?

アルコール飲料の消費量は減少傾向にあるなか、今年は各蔵から続々と新商品が登場しています。鹿児島県では大河ドラマ「西郷どん」の放送をきっかけに記念焼酎が発売されていたり、原料となるさつま芋の品種を強く打ち出して新商品が発売されていたりと銘柄が増えている傾向にあります。

今回の「焼酎楽宴」を取材していて、多くの蔵元が発していたのは「自社の特徴をしっかりと伝えたい」という言葉でした。言い換えれば、他社銘柄や他のアルコール飲料との違いをきちんと伝えたいという意味でもあります。

業界全体の商品数が増えるということは、自社の商品の個性をきちんと伝えなければせっかく造った商品が埋没します。「楽しく飲んでもらいたい」「本格焼酎や泡盛を好きになってほしい」と業界を盛り上げたい想いと同時に、多くの蔵元からは”きちんと伝えなければ”という造り手の意識、使命感が強く出ていたのが今年の特徴でした。

そのため、今回の「焼酎楽宴」では主催側の酒販店が企画し用意した設営環境の中で、蔵元・サポートに入っている飲食店・酒販店の三者がブース内できちんと目的疎通ができていて、連携しているかどうかが一目瞭然でした。単に来場者の試飲対応をするのではなく、三者が同じ提案意識を持っているかがブースごとに大変顕著に表れていました。

生産者の想いをどのようにエンドユーザーに届けるのか――そこには、酒販店・飲食店の力は欠かせません。イベントというのは、蔵元だけではなく酒販店や飲食店にとっても通常の店舗運営と異なったフィールドでお酒を紹介することになります。

焼酎や泡盛の美味しさや楽しさを伝えるために、各々の得意分野を持って何ができるのか。役割として何をすべきか。限られた「焼酎楽宴」の各ブースのなかで、酒販店と飲食店の皆さんの意識や提案力も見ることのできるイベントになっていました。

ここからは、商品の提案が明確に行われていて、特徴的だった蔵元をご紹介します。

本格焼酎「佐藤 白」「佐藤 黒」製造元 / 佐藤酒造(鹿児島県)  佐藤氏

夏の蒸し暑さを和らげるために炭酸割りやコールド系(ロック、水割り)を提案する蔵元が多いなか、蔵元の提案として「燗付け」にこだわって出していたのが佐藤酒造株式会社。その意図を佐藤さん(写真左)にお聞きしました。

「エンドユーザーのニーズに合わせて商品を造っていくのもひとつの方法ですし、うちは大きい会社ではないので、今ある設備の中で自分たちの新しいコンセプトを立ち上げていくことが大切だと思っています。

ブランド「佐藤」として何ができるのか、何を届けたいのか……私の場合は、まだ経験を積んでいる若手の世代なので最初のうちは悩んだり迷ったりしましたが、自分たちが《焼酎を造ることで成し得たいこと》がブレてしまうのが一番いけないのだ、と最近自分なりに答えを見出せるようになりました。

そう思った時に、やはりうちの蔵、銘柄を理解してもらうためには「燗付け」や「お湯割り」の提案を大事にしたいな、と。

だから、今回は会場が蒸し暑いなか、前割りした燗付けを提案することにこだわりました。“ロクヨン”(焼酎6:割り水4)で割ったお酒を燗付けする場合、60度手前の温度に上げておくと注いだ時には46~47度くらいになります。うちの焼酎の場合は、その温度まで上げないと表に出てこない焼酎の香りや旨みもあるので、芋焼酎「佐藤」はこうやって飲んでほしい、という美味しさの提案しました」

イベント当日は猛暑日で、しかも会場も熱気に包まれていましたが、イベント終了間際には「最後の1杯は「佐藤」がいい」と再度足を運ぶ来場者もいて、色々な銘柄を飲んでも最終的には自分の馴染みのある“定番”に戻ってくるファンの姿が見られました。

本格焼酎「ちんぐ」「ちんぐ 黒麹仕込み」製造元 /重家酒造(長崎県)  横山氏

“ちんぐ”とは「親友」という意味。日韓の架け橋を願って、蔵元と“ちんぐ“が集まり商品化された長崎県壱岐島で生産されている麦焼酎です。緑色のボトルは「ちんぐ グリーンボトル」とも呼ばれ、首都圏でも見ることの多い銘柄です。

「夏の暑い時や炭酸割りでスカッと飲みたい方には、「ちんぐ グリーンボトル」の炭酸割り「シュワッちんぐ」を提案しています。皆さんに重家(おもや)酒造の焼酎を身近に感じてもらえたらと思って、自社で「シュワッちんぐ」と名付けて飲み方の提案をしています。

うちの蔵で大事にしていることは、他の蔵が真似できないものを造ること。それによって“差別化”ができます。さらに、自社商品の差別化も強化しています。例えば、個性を強めて飲み手に届けたい銘柄は、手造りにこだわって甕仕込みで味わい深いものを目指しています。

逆に、さらっとした口当たりの良さが特徴の麦焼酎は、甕ではなくてドラムタンクを使用して造っています。麦焼酎のすっきりとした綺麗さが生まれて、香りも出しやすい利点を持っているんです。ドラムタンクはある程度の生産量も可能になりますし、酒質も乱れないので全国の皆さんに向けて安定した供給が可能になるんです。

ちなみに「ちんぐ グリーンボトル」は両方をブレンドして造っている麦焼酎なので、両者の良さを生かした銘柄です。今後は手造りを追求するもの、オートマチックで安定供給を図れるもの、それぞれの良さを活かしていきたいですし、むしろ今後はそういう時代になってくると思っています。今は造り手として、その準備をしているところですね」

自社商品の差別化、他社との差別化を明確にして来場者に説明している重家酒造蔵元の姿がありました。

来年の「焼酎楽宴」は、飲食店がメイン!

今年は酒販店が主体となって行われていた「焼酎楽宴」は、来年は飲食店がメインでイベント展開します。イベントの最後に飲食店のコメントとして、「焼酎&泡盛スタイル」のプロフェッショナルサポーターでもある布施知浩さんが「来年も期待していて下さい!」と宣言しているシーンもありました。

今、若手の飲食店経営者が育ち、切磋琢磨している飲食店の姿が見られる焼酎業界。来年の「焼酎楽宴」では飲食店としてどのような提案を行うのか、國酒「焼酎・泡盛」の魅力を伝えていくのか……その点も見どころのひとつです。

焼酎スタイリスト yukiko のリアルトーク

8月中旬以降から、芋焼酎を生産する焼酎蔵は製造期間に入ります。蔵元が自社の個性、銘柄ごとの個性をより明確に打ち出そうとしている現在、その”想いのバトン”を受け取る酒販店、飲食店がどこまで想いを咀嚼し、各々のフィールドで表現できるかが楽しみになってくるシーズンになります。

イベントに来場された人たちも含めて関わった人たちに何が芽生え、それぞれの日常でどのように生かされているのか……そこが本当のイベントの価値を決めるものなのだと私は考えています。

今回の「焼酎楽宴」は、明らかに蔵元の提案力が高まっていました。その要因は上記にも述べましたが、もう一つあります。それは、蔵元がパフォーマンスできる舞台が主催者側からきちんと用意されていたということです。

詳しくは、この記事の続編として公開予定の酒販店主催者代表・園部将さんのインタビューで触れています。本格焼酎・泡盛業界を盛り上げていくうえで興味深い内容が語られています。(皆さんの写真もたくさん掲載予定です!)

私は普段、スタイリスト兼 販促アドバイザーとして酒造業界以外の方々とも接点がありますが、「生産者―販売店・飲食店―メディア―エンドユーザー」の波紋が有効に生かされている現場には、各々の意識が高く、能動的な姿・考える姿が見られます。

ウェブマガジン「焼酎&泡盛スタイル-shochu&awamori STYLE-」は、飲む楽しさ、食べる楽しさの他にも、焼酎と泡盛について”読む楽しさ”も全国の皆さんにお届けしている情報媒体です。

焼酎スタイリストとして、“メディア”で情報発信をする立場として、皆さんのそういった姿をもっともっと全国の方々に紹介していけたら嬉しいです。これからも焼酎スタイリストとして焼酎・泡盛の業界を盛り上げる皆さんを応援していきたいと思います!

イベント関係者、蔵元、参加者の皆さん、ありがとうございました。

[取材・撮影・文・構成] yukiko(ユキコ / 焼酎スタイリスト、ファッションスタイリスト)
[協力] 色彩総合プロデュース「スタイル プロモーション」
※写真の無断転用、二次使用はお断り致しております。ご理解ご協力のほど宜しくお願い致します。

 

≪東京焼酎楽宴≫
日時:2018年6月24日(日)14:00-16:30
場所:大崎TOC本館 13階特別ホール
(東京都品川区西五反田7-22-17 13階特別ホール)

【参加蔵元】 八丈興発(東京都)、ゑびす酒造、天盃(福岡県)、常徳屋酒造場、藤居醸造、ぶんご銘醸、四ツ谷酒造(大分県)、重家酒造、久保酒造場、五島灘酒造(長崎県)、黒木本店、小玉醸造、佐藤焼酎製造場、松露酒造、古澤醸造、柳田酒造、渡邊酒造場(宮崎県)、天草酒造、豊永酒造(熊本県)、朝日酒造、植園酒造、宇都酒造、大石酒造、尾込商店、高良酒造、国分酒造、小牧醸造、小正醸造、櫻井酒造、佐多宗二商店、佐藤酒造、白石酒造、大海酒造、高崎酒造、田村合名会社、知覧醸造、中村酒造場、西酒造、万膳酒造、村尾酒造、大和桜酒造、八千代伝酒造、本坊酒造、有村酒造、富田酒造場、山田酒造(鹿児島県)、宮里酒造所(沖縄県)

【協力店】(順不同)五臓六腑、とり鉄三軒茶屋、籠、ととし(三軒茶屋)、まるしげ夢葉家、猿兵衛赤坂、き春、黒座暁楼(赤坂)、よよぎあん(代々木)、たく庵(四ツ谷)、ゆき椿(荻窪)、ことはじめ(祖師谷大蔵)、セキハナレ(世田谷)、だけん(八丁堀)、杉六(門前仲町)、鶏バル陽(祖師谷)、牡蠣BASARA(府中)、とんとん拍子(武蔵小杉)、TOKIO(狛江)、わ・かく田(大門)、板前処 菊うら(新宿)、模湖奈(秋葉原)、快積 八衛(人形町)、たかの家 茗荷谷店(小石川)、焼酎Bar  ENDEN(茨城県日立市)、酒席 まつした(芝浦)、南州酒場 てげてげ(平川町)、大金星 神保町(神保町)、ぶどう家(新橋)、焼鳥 修(金沢文庫)、とりぞの(六本木)、のら(恵比寿)、夢酒みずき(銀座)、きになるき、ゆるり屋道玄坂(渋谷)、ひとひら(学芸大学)、とりちゅう水道橋(水道橋)、鳥酎 虎ノ門(虎ノ門)、焼酎処みかん(鹿児島県鹿児島市)、コナマミレ(浜松町)、ごち惣家(東銀座)/大塚屋(練馬)、西山屋(川崎市)、勝鬨酒販(築地)、新川屋田島酒店(神宮前)

【主催】味のマチダヤ、伊勢五本店、籠屋秋元商店、コセド酒店、酒舗まさるや、内藤商店

 

 

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