【焼酎スタイリストyukiko 特別取材02】本格焼酎を彩る極上の一杯を!薩摩切子が生まれる現場へ ―日本の「モノづくり」「地域資源活用」特集(後編)―
焼酎スタイリストyukiko です。日本の「モノづくり」「地域資源活用」特集・後編は、本格焼酎イベント「焼酎ストリート」取材に伺った鹿児島県の伝統文化をご紹介します。
鹿児島の本格焼酎を楽しむために、ファッションスタイリストとしてもおすすめしたいのが極上の酒器「薩摩切子」。同じ焼酎を注いでも、一般的なグラスと薩摩切子では不思議なことに味わいが変わるんです。しかも、銘柄によって、その味わいの幅が異なるのも魅惑的……。
薩摩切子の誕生は、1846年に島津藩10代藩主 斉興(なりおき)が薬品容器の製造を始めたことがきっかけです。11代藩主 斉彬(なりあきら)が海外貿易の献上品として力を注ぎ、藩の財政を支える技術になっていきました。しかし、1863年の薩英戦争によってガラス工場も灰燼と帰し、歴史上から姿を消した伝統工芸品なんです。
100年以上もの時を経て、蘇りを果たした伝統工芸「薩摩切子」。
今回は、その文化を復興し発展を支えている2社に伺いました。
1985年に復興を手がけた株式会社島津興業 薩摩ガラス工芸。そこで実績を積んだ職人が独立して設立された薩摩びーどろ工芸株式会社。一言で「伝統工芸品 薩摩切子」といっても、各企業のブランディングが異なっている点にも注目していただきたい取材になりました。
「モノづくり」「地域資源活用」の分野、商品企画や販促活動に携わる方も、ぜひ参考にご覧下さい。
これからの日本人が誇れる薩摩切子を…株式会社島津興業 薩摩ガラス工芸
華やかで繊細、同時に重厚感を醸し出す薩摩切子。カッティングによって伝統的な文様や色のグラデーション(ぼかし)を生み出す職人、切子師・中根櫻龜(なかね おうき)さんにお話を伺いました。31年前の復興プロジェクト発足時から、島津藩直系の企業である株式会社島津興業 薩摩ガラス工芸にて第一線で働いていらっしゃる切子師のスペシャリストです。
(yukiko)鹿児島の文化は、他県の文化と比べてどのような点に特徴があると思いますか?
鹿児島は、島がたくさんあって「海洋国家」と呼ばれていました。江戸時代は鎖国だったにも関わらず、薩摩では琉球や中国、ヨーロッパ文化が入ってきていて、異文化と融合させる独自の文化を形成していました。江戸時代に盛んにつくられた薩摩切子も、琉球や中国のモチーフが含まれています。
そのような歴史的背景からみても、鹿児島は“新しいもの”が好きな県民性といえるかもしれません。良いと思うものや欲しいものは積極的に取り入れ、自分たちの文化や風土と融合させるのが得意だと思います。
(yukiko)島津薩摩切子を手掛けるうえで、中根さんが意識していことは何ですか?
薩摩切子は伝統工芸品ではありますが、自分としては「伝統のない新規工芸品」だと思っています。150年前に生まれ、20年足らずで「幻の工芸品」となって100年以上歴史が止まっていた工芸品です。復興のプロジェクトに加わった当時から「100年間止まっていた歴史を動かす」という意識で取り組んできました。
皆さんに薩摩切子を知ってもらうためには、単なるガラスの工芸品ではなく、“ストーリー”をつけて届けたいと意識しています。
幕末の動乱で一度途絶えたという他の伝統工芸品にはない歴史的背景があり、それが「幻の工芸品」として呼ばれるきっかけにもなっています。約30年前に復活した工芸品を現代の皆さんが「きれいだね、素敵だね」と言って下さるのであれば、それが島津薩摩切子の文化や伝統にプラスされて、未来へつながっていくものだと考えています。
(yukiko)ガラス工芸に興味を持ったきっかけを教えて下さい。
小学生の頃、デパートでの実演を見た時ですね。溶けたガラスがあっという間に動物になった職人技術に魅了されました。「ガラスで作品をつくりたい」と意識するようになったんです。薩摩切子を極めるきっかけは、ガラス工芸の学校に通っていた時、島津興業の薩摩切子復興プロジェクトに参加しないかと声がかかったからです。
(yukiko)伝統文化の世界に入ることに、女性として抵抗はありませんでしたか?
まったく抵抗はありませんでした。復興プロジェクトでは先輩や師匠が誰もいない環境だったので、他の伝統工芸の世界に飛び込む環境とは少し違っていたかもしれません。私はもともとアーティスト志向ではなく、職人志向。だから、自由に創作するよりも、伝統など制約があるなかでいかに可能性を追求するかという世界観が自分に合っていたのだと思います。
(yukiko)「自分のスキルを極めたい」「手に職を持ちたい」と願う現代女性へ、アドバイスをするとしたら?
自分の目の前にある仕事を「自分が出来る・出来ない」「やりたい・やりたくない」の判断で選ばないことですね。“やるべきこと”だと認識して、100%の力で取り組むことをおすすめします。
復興当時を知っている立場上、新しい仕事は私にまわってくるので「出来る・出来ない」に関わらず、やらなければいけない環境でした。一見、雑用や必要がなさそうなことでも、いずれつながる時がきます。それが「マルチスキル」と呼ばれるものになりますし、ひとつのことを極めるためにも「マルチスキル」を持っていないと無理なのが現代ですよね。
私たち職人も今までは自分たちの技術を極めて、流通は問屋さんや他の方にお任せしておけば良かった。エンドユーザーのことをそれほど考えなくても良かった。でも、今はエンドユーザーと知り会って、顔を知ってもらわないとモノが売れない時代になっています。
(yukiko)確かに、伝統文化産業である焼酎や他の商品にも共通することかもしれませんね。
今は、つくり手自身が語らなければいけませんし、ある種のパフォーマンスを示さなければいけない時もあります。どう伝えればうまく自分の想いを伝えられるのか練っていく必要があります。今まで要求されていない能力が職人やつくり手にも求められていると思っています。
(yukiko)中根さんの今後のビジョンは何ですか?
薩摩切子はハンドメイドなので「日本の匠の技」「日本人が誇れる工芸品」というのを伝え残していきたいですね。いかに日本人が誇りに思って、紹介したくなる工芸品にするか……その意識で薩摩切子をつくっていれば、お客さまが自然に薩摩切子をアピールして下さると思っています。
そのためにも大量生産では表現できない「手技の美」を追求しますし、それを感じ取ってもらえる繊細な感性は日本人には残っていると思っています。
(yukiko)「世界」を見据えたモノづくりを追求しているのですね。
そうですね。もともと斉彬の夢であったように、薩摩切子は「世界に向けてつくられた工芸品」です。日本人に認められ、世界が日本の素晴らしい工芸品だと認めてくれるところが私の最終的な目標です。
(yukiko)読者の皆さんにメッセージをお願いします。
薩摩切子は高価なイメージが強く、手元に置くガラス工芸品と思ってもらえなかったのですが、近年では、特に30代~40代の女性が「自分のために買う工芸品」になってきています。上質で、感性に合うものを身の回りに置きたい傾向が強くなっていると感じています。だから、まだ薩摩切子を見たことがない方も現物をまずは見てほしいと思います。
値段ではなく、まずは自分がどう感じるのか。その世界観で薩摩切子を見てほしい。もともと私は鹿児島出身ではないので、薩摩切子がどのような工芸品か分からず鹿児島に来ました。でも、薩摩切子を見ると“日本人”というアイデンティティを器から感じるんです。今後、日本人が世界に出れば出るほど、自分が「日本人である」という自覚が強くなると思います。その時に、自分の国で誇れるものとして薩摩切子を挙げてもらえたら嬉しいですね。
地元を活性させる「モノづくり」を……薩摩びーどろ工芸株式会社
薩摩切子を美しくカッティングするには、土台となるクリスタルガラスの生地が重要になってきます。1200度の窯のなかで溶けたガラスを、吹き竿の先に巻き取り、形をつくっていく職人が「吹き師」。透明なガラスと色ガラスを重ねた「色被せ(いろきせ)」という職人技術を用いて、薩摩切子を形成していきます。薩摩びーどろ工芸株式会社では、その重要な役目を担う吹き師 兼 工場長の野村誠さんにお話を伺いました。
(yukiko)薩摩切子を手掛けるうえで、野村さんが意識していることは何ですか?
まずはガラスの生地づくりですね。薩摩切子は透明ガラスと色ガラスをドッキングさせてつくるため、色の厚みや被せ(きせ)方が奥深いんです。窯の温度管理、原料調達など寝ないで調整することもあります。
特に、色の開発は苦労しますね(笑)。新色を生み出すまで2年くらいかかります。原料の種類や量によって発色の仕方、光の通り方が変わりますし、制作途中で割れることも多々あります。とにかく地道な作業です(笑)。その分、うまく色がマッチングした時はこの上ない喜びがありますね。
(yukiko)2006年に発売された黒の薩摩切子はセンセーショナルでしたね。お客さまの反応はいかがでしたか?
光を通しにくい黒は、切子業界にとって今までとても難度の高い色だったんです。それをいち早く発売したのが弊社でした。お客さまや周囲の反響がとても大きくて、今でも代表的なシリーズとして根強い人気です。お客さまから喜んでもらえるような薩摩切子をつくれているのは、伝統文化を手がける職人として大変嬉しいことですね。
(yukiko)江戸切子との違いを挙げるとしたら……?
江戸切子は色被せの厚みが0.5~0.2mmと薄くて、色調が濃いのが特徴です。そのため、透明部分と色の部分との境界線が割としっかりついていて、シャープでモダンなイメージのものが多いですね。
一方、薩摩切子はカッティングの際に色のグラデーション「ぼかし」の技術を充分に表現できるようガラス生地をつくっているので、色を重ねていく色被せの部分に2mm以上の厚みがないとうまく発色しないんです。その厚みから生まれる“にじみ”や色の深さ、温かみが薩摩切子の魅力です。
江戸切子、薩摩切子、全国に存在する切子……それぞれの特徴があるので、それを理解して手に取ってもらうと伝統文化産業も面白いと思いますし、良さが分かってもらえるのではないかと思います。
(yukiko)野村さんが伝統文化産業の世界に入るきっかけは何でしたか?
「モノづくり」が好きだったので、何か手に職をつけたかったんですね。ある日、薩摩切子の吹き師の姿を見て、とても格好よく思えたんです。薩摩切子は形をつくる「吹き師」と、カッティングを担当する「切子師」の分業制。私は希望していた吹き師として株式会社島津興業に入社しました。
その時の師匠が、現在、薩摩びーどろ工芸の代表・加藤征男なんです。「吹き師」として精神や技術を一から学ばせてもらった方だったので、独立して自分の窯を持つと聞いた時には「この人と一緒に仕事がしたい!」と思って、迷わずついていきました。
(yukiko)現在、さつま町で薩摩切子をつくっていて意識していることは何ですか?
社風もそうですが、鹿児島の人たちは郷土愛が強く「みんなで盛り上げていこう」「仲間として頑張っていこう」という意識が強いと思います。さつま町には焼酎蔵が3蔵あって(植園酒造、小牧醸造、軸屋酒造)、販売店やまちの人たちも、とにかく“さつま町愛”が強い(笑)。
さつま町の蔵元から薩摩切子のオーダーをいただくこともありますし、弊社でも蔵元の頑張りを受けて刺激をもらっています。私たちもさつま町を盛り上げる一員として、薩摩切子を手がけている意識がありますね。
(yukiko)野村さんの今後のビジョンは何ですか?
つくり手として、お客さまに感動を伝えたいですね。オーダーをいただいて、お客さまがイメージされていたもの通りの商品をお渡しできた時に感動して下さいます。弊社はさつま町に密着した地場産業でもあるので、まずは地元の方に愛される企業でありたいですし、自分たちの仕事を通してさつま町の地域活性に結び付けたい。その想いは強いですね。
(yukiko)読者の皆さんにメッセージをお願いします。
薩摩切子を知らない方も、見たことがない方も、ぜひ知ってほしい鹿児島の伝統工芸品です。もともとは島津興業が復興させたことから現代に薩摩切子が蘇りました。のちに師匠である加藤が弊社を立ち上げ、今では、この2社から巣立って新たな工房を開いている職人もいます。鹿児島の伝統文化である薩摩切子の今後の発展を、皆さんにも見ていてほしいですね。
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取材のなかで私がとても興味深く感じたのは、一言で「伝統工芸品 薩摩切子」といっても、各社でコンセプトが異なっている点でした。島津興業は直系企業として島津斉彬が目指していた“海外”における日本の伝統文化の在り方を追求していることに対して、薩摩びーどろ工芸は地場産業に力を入れています。
今回は鹿児島県の本格焼酎とも関わりのある「伝統工芸品 薩摩切子」について紹介しましたが、ぜひ皆さんもお酒を飲むシーンを自分なりにコーディネートして楽しんでほしいと思います。
私も「モノづくり」「地域資源活用」の現場で、生産者や販売店・飲食店の皆さんと一緒に“現代のライフスタイル”に合ったスタイリングや提案を行っていく予定です。そして、“時流”に合う本格焼酎や伝統工芸品をはじめ、さまざまな商品を積極的にメディアやイベントで紹介していきたいと思います!どうぞお楽しみに。
今回の取材・撮影でお世話になった皆さん、ありがとうございました!
【取材協力】
株式会社島津興業 薩摩ガラス工芸
http://www.satsumakiriko.co.jp/
薩摩びーどろ工芸株式会社
http://www.satuma-vidro.co.jp/【本格焼酎イベント / 焼酎ストリート】
2016年11月1日(火)~3日(木)鹿児島市[天文館]
主催:鹿児島県酒造組合
[撮影]Kazuhiro Bamba
[取材・撮影・文・企画構成・現地コーディネート] yukiko(焼酎スタイリスト / 色彩総合プロデュース「スタイル プロモーション」代表)
※写真の無断使用・転用はお断りしております
【この記事に関するお問い合わせ】
色彩総合プロデュース「スタイル プロモーション」まで直接お願いします。
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HP:https://www.fb-style.com/
(この記事はキャリア&マネー協会 yukikoが連載を担当するコラムでもご覧いただけます)
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焼酎スタイリスト®、ファッションスタイリスト。色彩総合プロデュース「スタイルプロモーション」代表。株式会社永谷園を経て“色が強み”のファッションスタイリストに転身。全国の蔵元らと連携して「焼酎スタイリスト®」として日本のお酒「國酒」を“流行×オシャレ”に発信。トレンドや美容情報に精通し、ファッション誌やビューティー誌にも登場。”時流”を掴んだお酒のコメントやアドバイスには定評がある。
蔵元や酒販店・飲食店からの信頼も厚く「蔵元公認 焼酎アンバサダー」「焼酎ナビゲーター」「泡盛スタイリスト®」「日本酒スタリスト®」なども務め、全国で講演やイベントプロデュース・企業研修を行う。大学の非常勤講師として教育分野でも活躍。(専門:販促色彩・ビジュアルプロモーション・ブランド構築・伝統文化産業)
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