【焼酎&泡盛スタイル対談】海外から見た「日本」を語るフードジャーナリスト マイケル・ブースさんインタビュー
食の生産地を数多く取材し、日本人よりも日本食に詳しいイギリス人フードジャーナリスト、マイケル・ブースさん。焼き鳥がきっかけで「ユネスコ無形文化遺産」に登録された和食文化に興味を持ち、今では“見たい・知りたい・食べたい!”と思い立ったら家族と一緒に日本へ!息子二人と妻と日本列島を縦断しながら田植えやウニの殻向き、そば打ちなどを体験。地元の人たちと触れ合いながら日本の食文化を学び、情報発信しています。ベストセラーになった体験型エッセイ『英国一家、日本を食べる』の続編『英国一家、日本をおかわり』執筆にあたり、笑いあり、珍事件ありの独自取材を通して感じた日本の印象、本格焼酎と泡盛の楽しみ方についてお聞きしてきました。
【profile】マイケル・ブース/ Michael Booth (フードジャーナリスト)
1971年イギリス サセックス生まれ。トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、作家。現在は妻と二人の息子とともにデンマーク在住。2010年 『Sushi & Beyond: What the Japanese Know About Cooking』で 「ギルド・オブ・フードライター賞」受賞。本書は13年『英国一家、日本を食べる』、14年『英国一家、ます ます日本を食べる』と2冊に分けて出版され、日本国内でベストセラー に。(18年文庫化) 2015年 4月、NHKワールド『英国一家、日本を食べる Sushi and Beyond』放送。2016年 『The almost nearly perfect People(『限りなく完 璧に近い人々―なぜ北欧の暮らしは世界一幸せなのか?』)で「ギ ルド・オブ・トラベルライター賞」受賞。 パリの有名料理学校「ル・コルドン・ブルー」で一年間修業し、 ミシュラン二つ星レストラン、「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」での経験 を綴った『Sacre Cordon Bléu(『英国一家、フランスを食べる』)』はBBCとTime Outで週間ベストセラーに。
2016年に農林水産省から、カンヌで行われた国際番組見本市「mipcom2016」に招かれる。2017年には「朝日地球会議2017」において「新北欧料理の進展と、世界への影響」について講演。2018年3月に『英国一家、日本をおかわり』(原題:The Meaning of Rice)を株式会社KADOKAWAより出版。
初来日から約10年。デンマーク在住イギリス人フードジャーナリストが魅了される日本とは?
(yukiko)マイケルさんは『英国一家、日本を食べる』『英国一家、ます ます日本を食べる』のもとになった著書『Sushi & Beyond: What the Japanese Know About Cooking』で、専門家の中で認められた権威ある賞「ギルド・オブ・フードライター賞」を受賞されていますよね。フードジャーナリストとして、日本の魅力とはどのような部分だと思いますか?
(マイケルさん)日本は大好きで今までに30回くらい来ているんです。その度に新しい発見があって、しかも都道府県によって文化が違う。他の国には、日本ほど細分化された食文化はないんです。
だから、“日本”という大きな枠の中だけではなくて、個々のまちに文化があるのが魅力だと思っています。今まで30か所の都道府県に行きましたが、その土地によって料理や環境も異なっていますよね。日本という国は、地域によって学べることが多くて興味深いと感じています。
(yukiko)取材する地域はどのように決めているのですか?マイケルさんの情報収集の仕方を教えて下さい。
(マイケルさん)出版社や観光協会の人たちなど、その地に詳しい人からまずは情報をもらいます。そのあと自分なりにその地域や文化、習慣などインターネットや本などできちんと調べて、「行ってみたい!」と興味を持ったところに足を運んでいます。
(yukiko)それが『英国一家』シリーズの執筆に繋がっているのですね。マイケルさんは日本各地に行かれていて、私たち日本人よりも日本のこと、日本の食文化のことをご存知なのかもしれません。
今回『英国一家、日本をおかわり』では焼酎と泡盛の地を訪れたエピソードがありますよね。まず、焼酎文化が色濃く根づく九州にはどのようなイメージを持っていますか?
(マイケルさん)九州は「焼酎のメインランド」だと思っています。焼酎を造るために必要な麹の種類も白麹、黒麹、黄麹と使い分けていて興味深いです。さらに、ウイスキーなど他の蒸留酒は口に含んだ時にカッとくる強さや鋭さがあるけれども、本格焼酎のほとんどはアルコール度数が25度だからそこまでの刺激はなくて口当たりが柔らかい。美味しいし飲みやすいから、どんどんお酒が進んでしまって注意しないと酔いがまわってしまう(笑)。
(yukiko)……そのコメントから焼酎がお好きなんだなというのが分かります(笑)。
(マイケルさん)特に、芋焼酎は好きですね。芋の複雑な味の際立ち、香りの立ち方が魅力的です。そんな“味の絡み合い”が美味しいと感じています。まだ飲んだことがない焼酎もたくさんあるので、yukikoさんからも教えてほしいですし、これからも色々と試してみたいですね。
(yukiko)焼酎スタイリストとしてお役に立てることであれば(笑)。では、泡盛文化が根付く沖縄県のイメージはいかがですか?
(マイケルさん)沖縄県は日本の文化の中でもさらに独特で、スペシャルな文化を持っていると思います。歴史、ロケーション、気候も他の都道府県と異なっていて、現地の方々によって育まれてきた良さや個性がたくさんあってとても魅力的な地だと感じています。
だから、そういう地で受け継がれてきた泡盛もとても魅力的。沖縄の自然豊かなロケーションのなかで黒麹を使用し、長い時間をかけて熟成される美味しさが素晴らしいと思っています。
本を出版するにあたり瑞泉酒造株式会社に伺ったのですが、その時に27年熟成の泡盛を飲ませてもらいました。まるでシングルモルトウイスキーを飲んだ時のような複雑な熟成香が届いてきて、とっても美味しかった!熟成されていく味わい深さは、泡盛の最大の魅力ですね。今度日本に来た時には、沖縄の島々を巡って、文化や習慣、現地の人々の暮らしを知って、もっと多くの発見をしていきたいです。
日本人には「5K」がある――息子たちにも学ばせたい日本文化
(yukiko)マイケルさんは日本各地を巡られて様々な経験をされていると思います。日本のお酒「國酒」も各地で楽しまれていると思いますが、マイケルさんが考える“お酒を楽しむポイント”があれば教えて下さい。
(マイケルさん)本格焼酎、泡盛、日本酒など、各地の文化や習慣に合わせて浸透しているものだと思うので、やはりお酒の生産地の郷土料理と合うと思います。現地の食とお酒は密接に関係しているものです。だから、まずは郷土料理と一緒に焼酎や泡盛を楽しんでみてはいかがでしょうか。
私も日本に来た時、東北に行ったら日本酒を飲みますし、九州なら焼酎、沖縄なら泡盛を知りたくなります。その土地の料理とお酒を楽しんでいます。
(yukiko)マイケルさんが日本に来られる時は、どれくらい滞在しているのですか?
(マイケルさん)この本にもあるように、家族で日本に来るときは10日間くらいで色々な地に行きます。本を執筆する時は1か月くらい滞在していますね。
(yukiko)マイケルさんは生産地で田植えをしたり、ウニの殻向きをしたり、そばを打ったりと実際に日本の文化、各地の習慣を体験して情報発信していますよね。前回の『英国一家、日本を食べる』、『英国一家、日本をおかわり』でも二人の息子さんが登場して、マイケルさんと一緒に現地を体験しています。子ども目線のストレートなコメントもこの本を楽しく読めるひとつの魅力だと思うのですが、お子さんと一緒に日本各地をまわるなかで、父親として彼らにどのような想いを持って接していますか?
(マイケルさん) 日本各地に行くことによって、まずは現地の方々との触れ合いを大事にしてほしいと思っています。日本人と日本社会には欧米で廃れつつある「5K」があります。「献身的」「勤勉」「規律正しさ」「几帳面」「決意に満ちている」……これは日本の料理人、生産者、職人、農家と接していると強く感じる部分です。生涯かけて全うしている人たちもいます。そういう日本人や日本文化と接点を持ってもらうことによって、息子たちにとっても教育上の価値があると思っています。
だから、旅を通して“職人”と呼べる人たちにたくさん会って、話す機会を増やしてほしい。彼らは今ではすっかり日本のファンで、デンマークにいても知人や友人に彼らなりの言葉で日本の素晴らしさを熱く語ってくれていますよ。
(yukiko)そうやって日本を好きでいてくれて、熱心に語って下さる海外の方がいることは、日本人としてとても嬉しいです。教育面で日本文化が役に立っていることも、私たち日本人がもっと誇りに思って良いことなのでしょうね。
(マイケルさん)息子たちは日本にとても愛着を持っています。今回、私が日本に来ていることに対して「自分たちも行きたい!」と本当は嫉妬していると思いますよ(笑)。
(yukiko)大人である私たちが日本の文化をどのように子どもたちに伝えていくのか……伝統や文化は受け継がれていくものなので、これからの世代にどのように魅力的に伝えていくかがとても大切ですよね。では、今後マイケルさんが行ってみたい地はありますか?
(マイケルさん)九州はまた行きたいですね。沖縄県も久米島などの島々に行ってみたいです。あとは四国や東北もまだ行っていない地があるので、足を運んでみたいと思います。現地の文化や食文化をもっと体験してみたいです。
マイケル・ブースさんが「焼酎&泡盛スタイル」読者に伝える、日本の伝統文化「焼酎・泡盛」の楽しみ方とは?
(yukiko)マイケルさんがおすすめする、焼酎・泡盛の楽しみ方を教えてもらえますか?
(マイケルさん)自分が飲むお酒がどのように出来上がっているのか知るのは素晴らしいことだと思っています。それは、“飲む”ということ自体を豊かにすることでもあるからです。
そして、たくさんあるお酒のなかから、自分なりで良いので選択すると良いでしょう。お酒にも大量生産されたものもあれば、クオリティを追求したものなど様々あると思います。そのお酒がどのように出来上がっているのかを知れば、どれを選んだら良いのか自分なりの目利きができるようになります。
(yukiko)そうですね、自分のスタイルをつくることはお酒の楽しみ方ですよね。最後に「焼酎&泡盛スタイル」読者の皆さんにメッセージをいただけますか?
(マイケルさん)ワインと同じように、焼酎や泡盛も大量生産されたものが良いのか、職人が1本1本大事に造ったものが良いのか自分なりに考えて判断して楽しんでほしいです。単にネームバリューや流行に左右されるのではなくて、きちんと自分の生活スタイルや商品のクオリティを理解したうえで判断してほしい。
そのためにも、自分が手にするお酒がどのような芋や麹を使って造られているのか、香料を使用しているのかなど自分なりに調べると良いでしょう。自分の好みも分かってお酒を飲むのが楽しくなるでしょうし、通常よりも高いお金を払ってお酒を飲むという価値も理解できるのだと思います。ぜひ皆さんも、自分が飲むお酒の背景を知って楽しんでもらいたいと思います。
マイケル・ブースさん、ありがとうございました。
《マイケル・ブースさんの著書》 株式会社KADOKAWA 発行
■『英国一家、日本を食べる』(原題:The Meaning of Rice)上下巻・各880円(税抜き)
マイケル・ブース(著)、寺西のぶ子(翻訳)/文庫版
装画:杉山真依子
■『英国一家、日本をおかわり』(原題:The Meaning of Rice) 1800円(税抜き)
マイケル・ブース(著)、寺西のぶ子(翻訳)
装画:杉山真依子
[取材・撮影・文]yukiko(焼酎スタイリスト、ファッションスタイリスト)
[協力]色彩総合プロデュース「スタイル プロモーション」
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焼酎スタイリスト®、ファッションスタイリスト。色彩総合プロデュース「スタイルプロモーション」代表。株式会社永谷園を経て“色が強み”のファッションスタイリストに転身。全国の蔵元らと連携して「焼酎スタイリスト®」として日本のお酒「國酒」を“流行×オシャレ”に発信。トレンドや美容情報に精通し、ファッション誌やビューティー誌にも登場。”時流”を掴んだお酒のコメントやアドバイスには定評がある。
蔵元や酒販店・飲食店からの信頼も厚く「蔵元公認 焼酎アンバサダー」「焼酎ナビゲーター」「泡盛スタイリスト®」「日本酒スタリスト®」なども務め、全国で講演やイベントプロデュース・企業研修を行う。大学の非常勤講師として教育分野でも活躍。(専門:販促色彩・ビジュアルプロモーション・ブランド構築・伝統文化産業)